振り返ること四半世紀前。
初めて個人旅行で訪れたイギリス、それは他でもない“ビートルズ”への憧れからくるものだった。ロンドンではビートルズを巡るウォーキングツアーに参加し、日帰りでリヴァプールに訪れたもののゆかりの地を回るツアーバスに乗り遅れて“ペニーレーン”でバスを待ち伏せし、まだオープン前のビートルズ博物館に特別に入れてもらって狂喜乱舞した。
それから波はあったものの聞き続け、2年前にふとしたことでビートルズ熱が再燃。ポールのソロやベスト盤も買って毎日飽きるほど聞いていた私にとって、今回はまさに「待ちこがれた」コンサートとなった。
日本には'90年、'93年、'02年と3回も来ているのに、1度も行こうとしなかった。この当時ストーンズとかクラプトンとかやたらビッグなアーティストがじゃんじゃん来日し、そんなにファンじゃないのに“大物”ってだけで躍起になってチケット取ってた人たちを斜に構えて見ていたのだと思う。
しかし去年のロンドンオリンピックの開会式で歌うポールを見て「こんなに長生きしてくれている人がわざわざ日本に来て歌ってくれるというなら、これを見に行かない理由はない!」と思ったのだ。
会場に入ると、他のアーティストによるビートルズのカバー曲が流れていた。その後ポールのソロのリミックスと共に曲をモチーフにしたコラージュ映像が左右の巨大なモニターにスクロールで流れ、始まる前から思わず笑顔になってしまった。
そしていよいよポール登場!1曲目は「Eight Days A Week」!丈の長い黒のジャケットと黒のパンツ、何曲目かで上着を脱いで「これが今日唯一の衣装替えだよ」と言っていた(笑)。モニターの下に日本語訳が出るようになっていたのが画期的。「Thank you」までいちいち訳さんでも分かるわい!という会場からの笑いも。
憧れの人が老いた姿を見るのはつらい思っていたけれど、全然老いてない!!
モニターに映るポールはスラッとして足が長く、太っても頭が薄くなってもなくて、男性としてほんとに魅力的でカッコイイ!180センチもあるんだよね〜。隣に立った時の身長差を妄想…。
ソロよりもビートルズの曲が多く、王道の曲だけでなく「We Can Work It Out」や「Lovely Rita」などグッとくる佳曲をやってくれたのもうれしかった。
キーもオリジナルのままで、高い音も危うさなどみじんも感じずにしっかり出ていたし、シャウトもガンガン!途中彼が71歳だということを忘れる瞬間が何度もあった。
思えば11年前でも60歳なんだもの、このバイタリティには驚かされるばかり。
約2時間半ひとりで歌い上げるってすごいよ!カラオケでも2時間半歌い続けたらヘトヘトになるのに。来日中そんなに間を空けずに2週間で6公演!!何度も言うけど71歳がだよ!?
ほぼ全曲がオリジナルアレンジだったのも良かった。何度となく聞き込んできた曲を慣れ親しんだアレンジで聴ける嬉しさったら無いもの!このお方は自分に何が求められているかを心の底から分かっていらっしゃるのだ。
音楽はもちろん、照明やBGVがとっても素晴らしかった。 どのBGVも面白くて、ポールは見たいしビデオも気になるしで忙しかった。
特に印象的だったのは、ジョン・レノンに捧げた「Here Today」。ポールが立つステージのまわり一面は滝となり、その中に吸い込まれそうになるほど幻想的で美しかった。
ビートルズ解散後、わだかまりを解消できぬままジョンに先立たれてしまったポール。ほんとはそんなことなかったのに。心から信頼していたはずなのに。そのことを告げられぬまま二度と会えない人になってしまったんだね。
ジョージ・ハリスンのためには「Something」を。ジョージにもらったというウクレレを弾きながら素朴なアレンジで歌いだし、途中からはオリジナルアレンジに。バックにはポールとジョージの写真が。泣くなというほうが無理でしょうが。
「ジョンに拍手を! 」「ジョージに捧げます!」なんて言われても他のコンサートだったら「縁もゆかりもないくせに」なんて思ってしまうが、今ここにいるこの人は、ジョンやジョージと実際に“バンド”を組んでいた人なんだ!という当たり前すぎる事実に素直に感動し、心から拍手を送った。
「Let It Be」や「Hey Jude」などいわゆるベタな曲もあらためて聴くとホントにいい曲なんだよね。「Hey Jude」の「better,better,better…yeah!」の高音シャウトには鳥肌。
福島の被災者に捧げるといって歌われた「Yesterday」。あまりにもスタンダードなのでそんな風に聴いたことがなかったけれど、昨日の悲しみをけっして忘れるのではなく“I believe in yesterday”と胸にとどめるこの歌詞をしみじみ聴いて、また涙が出た。
ラストはアビーロードのメドレー。
2年前のちょうど今頃、親しい人が急死した。遺品の中にあった「アビーロード」のCDを聞き、それまで気にも留めなかった歌詞が重くのしかかったことを思い出す。
「Boy, you’re gonna carry that weight, Carry that weight a long time(君はずっとその重荷を背負っていくんだ)」
重荷はずっと無くならない。けれど、生きているからこそ楽しめることだってたくさんあるはず。
このコンサートを見せてあげたかった。
ラストの『The End』の歌詞には胸がいっぱいになった。
「And in the end the love you take Is equal to the love you make(結局はあなたが得る愛はあなたが与える愛に等しい)」
今こうして目の前にいるポールが満たされているのは、まぎれもなくそれに等しいぐらいの愛を与えているからなのだ、と思った。
11月18日 セットリスト
01. Eight Days A Week
02. Save us
03. All My Loving
04. Listen To What The Man Said
05. Let Me Roll It/Foxy Lady (instrumental)
06. Paperback Writer
07. My Valentine
08. 1985
09. The Long And Winding Road
10. Maybe I'm Amazed
11. I've Just Seen A Face
12. We Can Work It Out
13. Another Day
14. And I Love Her
15. Blackbird
16. Here Today
17. NEW
18. Queenie Eye
19. Lady Madonna
20. All Together Now
21. Lovely Rita
22. Everybody Out There
23. Eleanor Rigby
24. Being for the Benefit of Mr. Kite!
25. Something
26. Ob-La-Di, Ob-La-Da
27. Band on the Run
28. Back in the U.S.S.R.
29. Let It Be
30. Live And Let Die
31. Hey Jude
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32. Day Tripper
33. Hi, Hi, Hi
34. Get back
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35. Yesterday
36. Helter Skelter
37. Golden Slumbers〜Carry That Weight〜The End
4 件のコメント:
読んでいて涙が出ました。
思うことがたくさんあります。
たくさん語りすぎるのも野暮なので。
今夜はビートルズを聴きながら、持ち帰りの仕事をしようと思います。
心のこもったレポートを読めて嬉しかったです。ありがとうございました。
hekeさん、ありがとうございます。
トシとると昔と違った視点で見てしまうので、妙なところで涙が出ますね(笑)。
過去の栄光だけじゃなく、新譜を引っさげてやってくるなんてカッコ良すぎます!しかもタイトルが『NEW』だなんて。いつも新しい気持ちで前を向いているポールに元気をもらいました。
ひとが老いる、とはどういうことなのか、改めて考えさせられました。すてき。
レポありがとうございます!熱が伝わりました(*^_^*)
さなりんさん
きっとジョンやジョージの分の命も預かっているんですよね。
天才かもしれないけど、努力もしてると思うのです。じゃないとあんな長時間楽器を弾きながら声が出るわけがない!
何しろ見た目がカッコイイというのは最高に素晴らしいじゃないですか!
“老いる”と“老ける”は違うんだということを見せつけられました。
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