2012/04/20

驚異のお針子さん

おそらく10年ほど前に買った深緑のオーバーコート。おととしあたり虫に食われて小さな穴があき、気がつくと三カ所ほどに増えてしまった。
冬はほとんど毎日着ていたほどお気に入りだったが、くたくたになることも色あせることもなかったので、このまま捨てるのも勿体無いなあと思ったのだが、穴のあいたコートを着続けるのはさすがに気が引けてしまい、昨年末についに新しいコートを買うことにした。
試着の際に店員さんが私のコートを見て
「きれいな色ですね。ハリスツイードですか?」
と聞いてきたのだが、そんなブランド品じゃないですよ!1万円もしなかったはずだし…と脱ぎかけたコートの裏にはしっかりと“Harris Tweed”のタグが付いていた!
ハリスツイードとは服のブランドではなくスコットランドのハリス地方で織られたツイード生地のことだそう。何年も着てたのにそんな上等なものだとは知らなんだ。だから何年経ってもきれいなままだったんだね。

価値があるものだと分かるとますます捨てるにはしのびない。
地元の商店街でずっと気になっていた「かけはぎ」のお店に持ち込むことにした。
かけはぎとは、穴のあいた場所に同じ布をあてて繊維を織り込む技術のこと。ネットで調べてもまあまあいいお値段がするので、ひなびた商店街の洋品店なら多少は安いと思ったのだ。
応対してくれたのは店主のおじいさま。見るからに頑固そうだ。
現物を見せてどれぐらいかかるか訊ねてみると、この穴だと一万円では済まないという。
繊維が薄くなっている場所も虫に食われかけているので、もっと大きな修理が必要だ。ひとことに「かけはぎ」といってもどれだけの手間がかかるか貴方は知っているのか、と話がだんだん職人自慢になってきて、挙げ句の果てに
「この分だとこの服を入れていたタンスの他の服も虫に食われているだろう」
とまで言われたものだから、大人しく職人自慢を聞いていた私もさすがに閉口してしまった。
「新しいのを買ったほうが安いですね」
と丁重にお断りし、頑固職人の店を出た。

せめてクリーニングだけでも、と地元のチェーン「ムサシノクリーニング」へ行ったら、そこに「リフォーム承ります」の文字が。 わらにもすがる思いで相談してみたら、穴をふさぐなら数百円で出来るという。ましてや一万円なんてまずはかからないと言われたので、そのまま託すことにした。

10日ほどで出来上がったと連絡がきたので取りに行くと、たったの2500円!
帰宅後確認してみたが、どこに穴があったのか分からないほど(大げさじゃなくホントに!)きれいに直してあり、擦れていたポケット部分も同じ色の糸で補修してくれていて、見違えるよう。また来シーズンこのコートが着られるかと思うと嬉しくなってしまった。

いったいどんなかたがこれを直してくれたのだろう。ありとあらゆる布を持っているおばあさんが内職でチクチク縫っている姿を想像している私(笑)。
自分の腕を自慢せずとも、きれいに直してあげたいという気持ちが伝わってくる。センスありますよホント!安くて申し訳ないぐらい。
今後も是非こちらにリフォームをお願いしようと思う。

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